目次へ   上香々地石像文化財探訪-1
sub3-93b 2011年12月12日 文字は、の等巾フォント(MSゴシック)でご覧ください。

行者窟

第3番目の探訪文化財は、ここから2.5km程上った、長小野地区の郵便局あたりから、さらに山の神方向へ1.5km上ったところにある駐車場の上の方にある。

先日の下見で大きなスズメ蜂の巣を見つけ、管理元の豊後高田市教育委員会にその事を電話した。それを受けて「スズメ蜂に注意」の看板を立てていただいた。
あれから気温もずいぶん下がったので、ハチは心配ないだろう。

駐車場に車を停めて、整備されたクヌギの擬木コンクリート柱で作られた階段を200m程上ったところにある「行者窟」を目指す。

行者窟への道を右に左に折れ曲がりながら上り行く。紅葉の綺麗な林の中を気持ちいいペースで進む。

100m程歩くと、額装に「蔵王権現」と彫られた鳥居が立っている。役行者と蔵王権現はセットであると山本さんからうかがう。

鳥居を潜ってさらに歩くと、急な上りの先に見晴らしの良い場所に出る。

ここからの眺めは、夷の中山仙境のゴツゴツした岩山や、西狩場の谷筋が眺望でき、さらに、その向こうにはハジカミ山、尻付山が見える。

しばし絶景を楽しみながら山々の名を確かめた。


絶景をしばらく眺めて、山の名前で盛り上がり、結局誰かが調べる事となった様に記憶するが・・・

そこから程なくで10段程の急な石段があり、その上の段には石灯寵が見える。

私と誰かが、その石段をのぼりあがる寸前で、ウォ~という叫び声聞こえて振り返った。その瞬間、まるで軽トラックが猛スピードで走り抜けたかの様に、真っ黒い塊が私の左から右へ通り抜けた。

次の瞬間、その黒い物体は、少しの藪を突き破り、宙を飛び、垂直に切り立った岩壁の谷底へ消えた。(たぶん見えてはいないが、そう脳は記憶している)

ドーンという地響きに似た音の後、一瞬の静寂があった様に思う。すぐに、バリバリと枯れ竹の上を大きな丸い球が転がるような音を谷底に響かせて、谷下の方へと音は消えて行った。

右の画像の石段の下を猪が駆け抜けた。人間の足もとをかすめる様に駆け抜けた。もしも、運悪く、誰かにイノシシがぶつかったらと思うと冷や汗が流れる。笑い事では済まされなかっただろう。一瞬の笑い声は聞こえたが、禿げた頭からも冷や汗が噴き出していた。

後で見れば、石段の下に少し窪みがあった。きっと、猪はこのくぼみで寝ていたのだろう。
私たちの気配に驚いて飛び出した先が断崖絶壁の谷底だった。

猪には申し訳ない事をした様だが、命があって良かった。


石段を登り切って十数歩で見事な景観があらわれる。大きく抉られた窟の中央に板張りの床が架けられ、小さな堂祠が中央につくられている。

「国東半島の歴史と民族 著者梅原治夫氏 昭和49年発行」では、三重八景のひとつで「行看窟の霊水」とされているが、小さな堂宇のある崖下の半ばあたりに水がしみだしている場所が見える。おそらくこれが「行者窟の霊水」であろう。

小さな堂祠には、向かって右から、蔵王権現、前鬼、役行者、後鬼、不動明王と並んでいるように立札があるが、不動明王の姿は見えない。

残念な事に、昭和43年ごろに心なき輩によって持ち去られたと確認した。本当に残念でならない。

大きく挟れた窟の天井には、大きなスズメバチの巣がぶら下がっている。下見に来た時には頭上で念仏が唱えられているのではないかと勘違いしたが、今は外気温の低下とともにハチは巣に潜み、その姿は見えない。

ここまで無事に上れた事、絶景に出会えた事を堂祠の中の石仏に感謝した。

前鬼(ぜんき)・後鬼(ごき)は、役行者が従えていた夫婦の鬼。
前鬼が夫、後鬼が妻。名は善童鬼(ぜんどうき)と妙童鬼(みょうどうき)。
前鬼は陰陽の陽を表す赤鬼で鉄斧を手にし、役行者の前を進み道を切り開く。
後鬼は、陰を表す青鬼で、理水(霊力のある水)が入った水瓶を手に持っている。


行者窟の霊水
前の立て看板には、以下のような説明書きがあったので、転記します。


行者窟の由来 昭和六十三年四月 長小野上講中

一.当初は、第四十二代文武天皇の大宝元年
  (701年)に、行者御来遊の霊場として、今
  に伝承されている。

二.第四十五代聖武天皇の天平十七年(745年)
  発起者ありて行者様の姿像を祀る。
  これが行者窟の創始である。

三.第百二十一代孝明天皇の安政七年(1860年)
  堂祠改修され、当時の余瀬長小野村長等にて、
  千百六十年忌祭の修札を奉納。

四.本年三月上講中の浄財により、堂祠を改修して
  千二百八十八年忌祭の修札を奉納し、また古昔
  ながらの難路の安全対策を施して老幼婦女子の
  登山を容易にした。



帰り道、イノシシが飛び込んだ谷の上あたりで、ツル状の植物に丸い実がなっているのを見つけた。
足元を見ると、黒紫色に熟した実が落ちている。それを拾って、薄皮を剥くと、イチジクに似た果肉が現れた。

恐る恐る口に入れてみると、甘くておいしい。イチジクのようなブルーベリーのような、じつにいい味と香りの実だった。その名を誰も知らなかった。枝を一つ折って、持ち帰り、調べる事になった。担当は山本さん。

その横にはコメジヤカキも実を付けていた。

絶景や、珍しいものを経験でき、そのうえイノシシの突進を目の当たりにした。
そうそう、山頂で大日向さんにいただいたミカンンも最高だった。

何よりも、事故無く駐車場に戻り着いた事に感謝。



ただ今の時間は、11時30分。12時までのリミットにはもう少しある。

それでは、隈井店から200mほどのぼった所にある磨崖庚申塔を探索して今日の会をおさめよう。

車に乗り込んで移動開始。安全運転で行きましょう。

当日の夕刻、山本さんの調査結果から、「オオイタビ」と判明しました。(地区では、イワイタビという)

Wikipediaより・・・
オオイタビ(Ficus pumila)はクワ科イチジク属の常緑つる性木本。東アジア南部に分布し、日本では関東南部以西、特に海岸近くの暖地に自生し、栽培もされる。茎から出る気根で固着しながら木や岩に這い登る。オオイタビの名は、イタビカズラに似て大型であることによる。台湾に生育する変種のアイギョクシ(F. pumila var. awkeotsang)は果実を食用に用いる。