kebesu-f 櫛来社のケベス祭
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2009/10/14・15


ケベス練楽

拝殿の中で面を着けられたケベスが、拝殿の階段を下ってくる。

太鼓がドーン・・、ドーン・・、とゆったりと境内の空気を振るわせる。鉦が、その合間をチーン・・、チーン・・と埋め、笛が高いトーンで風を奏でる。まるで時間が止まるのではないかと思えるほど優雅に感じる。

ケベスはこのリズムに合わせて、大きく開いた足をゆっくりと踏み出し、カリマタ棒を左の肩ににのせて、右手に持ったセンスでカリマタ棒を押さえ、肩を大きく揺すりながら、境内を右回りに進んで行く。ゆったりと、ゆっくりと太鼓・鉦・笛の音と共に境内を回る。

二回り目を過ぎたあたりで一瞬音が闇に吸い込まれた様に静かに感じた瞬間、ケベスは燃える庭火に向かって走り出す。カリマタ棒をやや地面に向けて、火に引き寄せられる様に勢い良く走り込む。火を守るトウバの一人がそれを体で受けて押し戻す。

ケベス、トウバは双方力の限りの攻防を演じ、一歩も引かぬ攻めぎ合いが燃え盛る庭火を背に繰り広げられる。
   

トウバに押し戻されたケベスは、ケベス係や神主によって列に連れ戻される。

境内を3回まわる毎にケベスは庭火に突進し、トウバとの攻めぎ合いを繰り返す。3回目にケベスが火に飛び込む時はトウバはそれを止めない。トウバは、庭火を目指して飛び込んで来るケベスの足下に燃えていないシダ把を置き、ケベスは、それを踏んで庭火を勢い良く跳ねる。

今年は、ケベスが庭火に飛び込んで行き、それをトウバが押し戻す回数が多かった様に感じたが、さて、どうだったのだろう。

私が楽しみにしていた国広親子による父のケベスとそれを受ける息子のトウバの攻めぎ合いが行われた。
走り込むケベスを、息子のトウバはしっかりと体で受け止め、カリマタを合わせた勇壮な攻めぎ合いを見事に演じて見せた。
父は息子の成長をしっかり感じた事だろう。
彼らがトウバ組となるのは8年後である。父と息子がその役を入れ替わって攻めぎ合う姿が見られる事を期待しよう。

松本三兄弟の父親がケベスを押し戻す雄姿である。

最後に、ケベスが庭火に飛び込んで火を撥ねる。
一瞬にして真っ赤に燃え上がる炎をケベスの面は反射して赤く輝く。
ケベス・・その由来は、その姿はなにを表しているのか?火とケベスの関係は?ケベスとはいったい何者だろか。いずれにせよ、秋の豊かな収穫に感謝し、無病息災を祈り、また、来年も豊かな実りを願う祭事であることは間違いないだろう。

ケベスが庭火を撥ねたのを合図にトウバ達は一斉に燃え盛るシダ把をカリマタの先に突き刺して、境内を走り回る。

ケベスは、西門、御供所前、拝殿前の三カ所で藁づとを地面に打ち付ける。その音が良いと豊作、あるいは年柄が良いと言われる。さて、今年の音はどうだったのだろう。
走り回るトウバと逃げまどう見物人の声に、その様を見るのを忘れていた。



 

関を切った様にトウバ達が燃え盛るシダ把をカリマタの先に突き刺して境内を走りまわる。火の粉が宙を舞い、炎が闇を焦がす。
見物の人々は歓声あげながら火を振り回すトウバから逃げまどう。
火の粉を浴びると健康でいられると云われる。
今年一番若いトウバも父親に抱えられて火のついたシダ把を振り回していた。もちろん、松本航君兄弟も元気いっぱいトウバの役を果たしていた。けがも火傷も無くて良かった。

やがて、500余りのシダ把はすべて燃やされ、すべての災いの元を焼き尽くして燃え尽きた。
戻った静寂にトウバ達の顔は重責を果たした安堵の笑顔が戻っていた。ご褒美の煤が顔中についている。十分に火の粉を浴びた証である。

祭の本質は、国東半島の各地域で行われている、無病息災・五穀成就・万民快楽の神事である。今年の豊作や健康に感謝し、新しく来る年に対する再びの無病息災・五穀成就(五穀豊穣)である。これは、神官・神主の祝詞の中で明確にあらわされている。

さて、この行事中で一番の見所がケベスの練楽であり、燃え盛る炎である。火は、修生鬼会でも、祭の象徴とされ、すべての災いを焼き尽くすとされる。ケベス祭の火も、シダ把に放たれ、振り回され災いを焼き尽くす。
ただ、ケベスの役目とあの奇妙な面が何を意味するのか謎である。記録も無い。勝手に想像すれば、ケベスは猿田彦神であり、太陽神であるとしよう。太陽は、五穀豊穣・無病息災を左右する気象の要である。カリマタ棒で火を撥ね、大きく燃え上がらせる所作は、暗雲を掻き分け、太陽の光を大地に射す事では無かろうか。そう仮説を立てると、なぜケベスが庭火に飛び込むのをトウバが押し戻すのか?ケベスは三度に一度火に向かって走り込み、九度目で庭火に飛び込んで火を跳ねる。三三九度の所作であろう。ここに何が込められているのか。謎の奇祭である。それ故幻想的で宇宙をも感じさせる火の祭典であった。

明日が、9月祭の一番重要な祭事が行われ、真の直会で祭が終わる。

ケベス祭の取材とまとめには、国見町櫛海古江地区の国広太志様並びに
同地区の皆様、写真提供をいただいた池田様、櫛来社に祀られる神様の
情報をいただいた国東市の源空様、横須賀の河野様、東京の太郎天様、
国見町の山本様、ありがとうございました。お礼申し上げます。

もう少し、書き残したい情報もありますが、とりあえずアップしました。