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sub3-70 2006年1月7日 文字は、中の等巾フォントでご覧ください。 |
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国東半島を歩き始めて5年ほどになるが、地べたばかりを歩いていた。
たしか、猪群山と両子山は登ったと思うが、主体は海岸線と地べただった。
きょうは、先輩の下平さんに同行いただいて香々地の夷にある中山仙境へ登って見ることとなった。
一度は登ってみたい場所だったが、一人で登って怪我でもしたら誰かに迷惑をかけると思い、中山仙境へのハイキングが実現しなかった。 |
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「たびにありて」の管理人さんや「独歩」さんの登頂画像に刺激され、山登りに長けた先輩にお願いして今日のハイクが実現した。
10時30分、コンビニでカップの豚汁とおにぎりと水を買い込んで車に乗り込んだ。
11時30分に夷谷の霊仙寺駐車場に到着し河川プールから中山仙境ハイクが始まった。
天気はまあまあ。青空が広がっている。少々風が強く、昨夜降った雪がうっすらと林の中の道を覆っているが良いハイキング日和だ。 |
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川を渡って檜と杉の林の中に作られたハイキング道路を進むと、道はすぐに急な上りとなって私の息を荒立てて行く。
山登りに長けた先輩は軽々と足を進めてどんどん急な道を登っていく。私はハアハアと息を荒立て、頭からは汗を吹き出しながらそのあとを追う。
時折私を気遣って振り返る先輩の顔をにこやかに見上げながら必死の形相を隠して足を坂道に一歩一歩あげて行く。 |
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15分で標高差75mを上り頭の汗が耳までたれている。雪に冷やされた風がその汗を蒸散して気持ちいい。
休むことなく尾根をどんどん進んで行く。
道はハイカーの足によってくっきりと識別できる。今日は誰の足跡も無く、真っ白な雪に私たちが新しい足跡を刻んで行く。
突然左の谷の視界が開けて、眼下に霊仙寺や夷の教会が見えた。
切り立った絶壁に少々足がふるえているのを感じながらカメラのシャッターを切った。 |
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少し進むと真新しい鎖が岩の頂上から垂れ下がり、岩に刻まれた段が立ちはだかった。
当然ここを登るのだろうが、呆然と見上げている私を置いてスルスルと先輩は登っていった。
あわてて私も鎖にぶら下がりながら浅い段につま先をのせながら登って行く。雪で滑る足を踏ん張りながら登り着いた岩の上には雪をかぶったお地蔵さんが私を迎えてくれた。
足を振るわせながら振り返ると谷間に三重小学校が見えて、その向こうには青い周防灘の海が広がっていた。
絶景である。絶景!絶景!
山幸彦さんの気持が少しだけ分かったような気がした。鳥が私の足の下の世界を飛んで行く。その様を上から見ている自分が不思議にも思えた。 |
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一つ浅い谷へ下りて、また次の岩峰へのぼる。だんだん岩場にも慣れて、少しだけ余裕が出てきたように思いながら後へ続く。
ごつごつとした海底隆起の砂岩とおぼしき岩につかまりながらよじ登ると幅40cmほどの石の橋が狭い谷をつないでいる。
先輩は、すでに橋の向こうに居て橋の手前の私を見ている。
橋の左下は垂直に切り立った奈落の底の様に深い谷が見え、右は藪に覆われて良くは見えない。
渡ろうと石の橋に目をやると、その表面は昨夜の雪で濡れ、凍っているように見えた。
手前に体重を残したまま左足を石橋にのせて感触を確かめたがつるつると摩擦が無い。
先輩はその様子をどう見ているだろうか?その顔色すら見る余裕は無かったが、恐る恐る交互に足を前に踏み出して渡りきった。
少し震える足を押さえながら振り返ると橋の中央に一本の線があるのが見えた。
橋はふたつの石を両側から拝み会わせたものであることを知った。
何ともスリル満点の無明橋であった。 |
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いくつかの峰を経由して、12時30分夷耶馬(高城)316.9mへ到着した。
山頂にはお地蔵さんと天照皇大神が祀られていた。
昨日の雪がうっすらと覆い、私の目には、いつぞやテレビで見たヒマラヤの山岳仏教の聖地の様に見えた。
国東半島の山岳仏教の聖地、いや、すべての神仏の聖地に違いないと感じる空間だった。
何事もなくここまで来れた事と、いい天気に恵まれて絶景を見せていただいたお礼に、天照皇大神に頭をたれ、地蔵菩薩に手を合わせた。 |
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絶景を眼下に見下ろしながら山達人の先輩が年季の入った石油コンロでお湯を沸かしはじめた。
風を避けて尾根の南側斜面にコンロをたててアルミのコッヘルでお湯を沸かし、コンビニで買い込んだ豚汁のカップへ注ぐ。
雪風に冷たい風が、頭の汗から体温を奪って全身がどんどん冷えていく。熱々の豚汁があ
りがたい。
フウフウと白い息を吐きながらあっという間に熱い豚汁は私の胃袋へ吸い込まれた。
おにぎりをその上から詰め込んで山の上での昼食を済ませた。
私の知らなかった世界一の昼食だったかもしれない。 |
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昼食を済ませて、ゆったりと絶景を楽しんでまた歩き始める。
天空の地蔵に事故のないことを祈り、リュックを背負って鎖に助けられながら急な壁を下る。両側がほぼ垂直にそぎ落とされた尾根道が天空へ架かった橋の様に向こうへと続いている。
真っ白な雪が道の縁を際だたせて、谷とのコントラストをより際だたせて強い恐怖を感じさせる。
時折吹く風に身体を丸めて耐えながら足早に進む。
かなりの絶景だろうが、それを眺めて立ち止まる余裕は無かった。
右に倒れても左に滑っても遙か足下の谷底へ落されるだろう。途中で私の身体を受け止めてくれる木など見あたらない。
足を踏み外さないように正確に足を前に進める作業を気持はやめにくり返した。 |
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最後の峰にある地蔵に手を合わせて垂直に切り立った壁を鎖にしがみつきながら下る。
木々の隙間に深い谷底が見え隠れして最高のスリルを味わう事ができる。こんな余裕が出てきたようだ。
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しばらく下ると垂直な壁にえぐられた窟に岩屋があった。
行者が山岳練行に隠った岩屋である。
岩屋の奥には石の仏が祀られていた。 |
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ここを下れば今日のコースが終わりとなる。
雪の残る急な道を滑り降りながら夷の谷へと戻る。
途中藪の中にはまだ青い実のアオキや藪椿の青々とした色が疲れをなぐさめてくれる。
藪の中にはしっかりと積み上げられた石垣が杉や檜の根に覆われているのが見える。
たぶん、何十年か前には田んぼか畑だったのだろう。
国東半島の仏教文化の衰退とともに険しい環境の農耕地も荒れて行ったのだろうか。 |
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2時間の天空ハイキングで気持ちいい汗を流して、気持ちいい空気を吸って、最高の絶景を眺める事が出来た。
今日は充実の一日を過ごすことが出来た。 |
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下平さんのおかげで最高のハイキングを楽しむことができました。・・感謝
さて、筋肉痛が心配なので、温泉にでもつかって、突然酷使した筋肉をほぐしておこうと国見町の渓泉へと向かう。
この近くに夷谷温泉があるが、鉄分が多くて体が鉄臭くなる。
今日は最高の気分をながく保ちたくて温泉らしい硫黄の香りがする渓泉を選んだ。
雪の残る山道を経由して赤根に到着したのは3時過ぎだった。 |
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早速ほのかな硫黄の香り漂う湯船につかって地球の恵みに筋肉をもみほぐしてもらう。
ただただ、じっと肩までつかって今日の絶景を思い出しながら筋肉がほぐれて行く時間をお湯に任せた。
やや心配だった腰の痛みも我慢できる程度の軽さで済んだ。
私の知らなかった国東半島の尾根歩き、魅力にとりつかれてしまいそうである。
いやいや、いい気分である。
国東半島極楽極楽。 |
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