目次へ 国東町/鶴川 sub3-26 2003年1月4日

1月4日11時2分・・国東町小原のスーパーアオキ駐車場に車を止めて、旧道の商店街を歩く事にした。
天気は曇り。ほとんど風はないが、外気温は冷たく頬をさして来る。ポケットの軍手を取り出して両手にはめる。
駐車場から少し歩くと、清流川に架かる清流橋を渡る。川一面に葦が冬枯れて冬の風情をみせている。
鼻の頭に冷たい刺激を感じて見上げると、ちらほらと白いものが落ちてくるのが見えた。冷え込みは雪を降らせはじめた。突然羽音がして葦の影からゴイサギが飛び立った。昼時の食事中だったのかもしれない。
雪はちょうど良くパラパラと私の顔を撫で落ちて行く。

さらに、どんどんと突き進む。寒さに抵抗しながら足をはやめる。あまりの寒さに目的を忘れてしまいそうになる。美尾谷橋にかかる頃には両手で耳を押さえて、冷たさとの戦いの様だった。
人っ子一人通らない静かな正月がここにある。
少しでも景色を写し取ろうと思うが、耳から手が離せない。それでも無理矢理カメラを持たせてシャッターを押させる。

材木のいい香りが流れて来る。坂の手前にある木材加工所の真新しい木くずや板からのものだろう。

檜や杉などの針葉樹独特の爽やかな香りを楽しんだ。

その爽やかな香りさえもこの寒さはさらに強い刺激を私にもたらす。凍える手でシャッターを押した。

坂の途中には自転車屋があって、ショーウインドウには沢山の自転車が並べられていたが、今もその様子は変わって無いだろうか。
昔懐かしいホーロー看板の倉庫がとても新鮮に見えて、思わずパチリ。
そんな私を国東中学校の野球部の生徒が追い越していった。


今日は正月の三が日の次の日。当然人通りを期待したが、人影は、時折通る国東中学の学生のみ。
なんだか寂しい正月の町である。ゆっくり歩きながらショーウインドーをのぞき込むと、ひと昔も二昔も前の宣伝広告や看板が太陽の紫外線に色をとばされて、今にも消えそうなほどに薄い色を残している。
まるで、この町の明日のようにどんどん薄らいで行くように感じた。店の奥の薄暗い空間には人影がうずくまっているように見える。正月らしい賑わいも甲高い子どもの声も聞こえてこない。

少し歩くと、人が出入りしているところがあった。そこは郵便局だった。不意にいただいた年賀状の返礼でも持ってきたのだろう。

そんな人気のない町を歩いていると、交差点の真ん中に派手な装束の人が踊っているのが目にとまった。足下は白い足袋に草履。その鼻緒は鮮やかな緑色が光り輝いている。真っ白な袴の上はオレンジの羽織が金糸銀糸で飾られて眩しくキラキラと太陽を反射していた。緑の帽子は大きく頭をおおい、それも金銀のラメで飾られている。
なんと大黒様ではないか。私がその後を追うと大黒様は右手の路地へひらりと方向を変えて消えた。私は走ってその後を追いかける。角を曲がって出た先は大分交通の国東バスターミナルだった。さらにその先へと後を追う。
目の前には青い海が広がっていた。その視界に目を奪われた瞬間に大黒様は姿を消した。
きょろきょろと探すが見あたらない。ふと左手をみると鳥居があり、地主社と印された社が有った。ひょっとしてここへ来たのかと探してみたが見つからない。

仕方なくもとの道を戻りはじめると、正面にキラキラと光るものが見える。

その方向へ必死で走ると鳥居が見えて、その向こう側から光が発している。さっきの大黒様だ。今度こそと思ってどんどん鳥居に近づく。なんと、またしても地主神社。

大きな門松が飾られて、しめ縄も真新しい。
そっと社の中を覗いてみるが、人の姿は見えない。薄暗闇の中にろうそくの明かりが揺れているだけだった。折角の神社に頭を下げて柏手を打って、去年のお礼と今年のお願いをした。

それにしても、あの大黒様は何なんだろうか。キツネか、タヌキか、本物か?。なんだかどうしても正体を暴いてやろうという気になった。もう一度、最初見つけた交差点に戻ろうと振り向くと、その交差点で今度は恵比寿様が大きな鯛を抱えて踊っている。

今度こそと思って、その交差点へ走った。私が交差点に近づくと、その姿はスーと左へ消えてゆく。さらにどんどん追いかける。向こうから自転車で来るおばさんは知らん顔で通り過ぎる。見えないのか?

次の角を突然に左に曲がる。ここは国東町の飲屋街で親不孝通りといわれるあたり。其の通りをどんどんと「割烹おつむぎ」の方へ走る。大きな鯛を抱えた恵比寿様のその先に大黒様がこっちを向いて立っている。私を見つけるとくるりと向こうを向いて、恵比寿様とともに桜八幡の境内へと入っていった。私も後を追って桜八幡の鳥居をくぐった。境内には数人の老人たちがたき火を囲んで暖をとっている。その輪の中に恵比寿様と大黒様は滑り込むように消えていった。一体この中の誰だったのだろうか。私も燃えさかるたき火に近づきながら老人の顔をのぞき込んだがどの顔もにこやかにわらっているだけだった。間違いなくここに恵比寿様と大黒様がいるのだが、見分けることが出来ない。7人の老人たちは皆にこやかに私を見ている。・・・7人?この人数がどうも気になるが・・?

桜八幡に手をあわせて、凍えつく気温に我を取り戻した。それにしても不思議な体験をした。


国東町鶴川・・歩いてみると不思議がいっぱいの町である。
東国東郡内では最も繁栄した鶴川の町も、今は遠い昔。
どんどん時代に置き去りにされて、元気がどんどん乾涸らびて行く様を見たように思う。
それでも、時代に必死でついて行こうと若い世代が頑張っている様子も見える。
「ソバの米屋」は古式ソバ打ちで売り出し中。老舗の海喜荘もどんどんWebで売り出して、そんな元気がどんどん増えて行けばこの町も変わるだろう。

大黒様も恵比寿様もこの町を応援しているんです。

元気になれ・・・鶴川・・・