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その当時を思いおこしてみよう。 そろそろ冬を迎える頃だったように記憶する。店ののれんをくぐると座敷に通された。 座敷といっても六畳かそこらの畳敷きに炬燵があって、やけに所帯じみた記憶がある。熱いお茶をすすり、鰻の骨を唐揚げ風にしたものをいただきながら鰻重を待った。 ガラガラとガラス戸が開く音がして、誰か入ってきた。「良いのが獲れたよ。」そう聞こえて、土間にバケツを置く音がした。「おお、これは良い。」「どこで捕ったかえ。」・・どうも鰻らしい。私たちは土間との堺にある障子を開けてその様子を覗いた。身を乗り出してバケツの中を覗くと立派な鰻が二匹うごめいていた。 勿論、私たちのために焼かれている鰻は天然物じゃないとは思うが、少しだけ期待させる出来事だった。ワイワイガヤガヤと鰻の話が弾んで、期待も膨らんだ頃、いい匂いの鰻が運ばれてきた。 絶頂のタイミングで目の前に現れた鰻に一目散で食らいついて、アッという間に重の底を見た。 いやあ・・うまかった。 勿論、鰻には頭がついたままの国東半島風・・だった。 あれからずいぶんこの店とはご無沙汰していたのだが、久しぶりに訪れてみた。 出てきた鰻には頭はなく、焼き加減も都会風に洗練されたものとなっていた。 しかしながら、じっくりと深焼きされた鰻は実に芳ばしく、良い感じだった。 |
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