目次へ sub3-32 2003年6月08日

梅雨までのほんのわずかの期間の晴れの日曜日。ぶらりと出かけては見たが、あても無し。オレンジロードから脇道へと無理矢理入り込んで、道無き道を藪をかき分けて進む。やっと広い舗装道路に出ることが出来た。ここは国東町。そのまま道なりに進んで、赤松の谷へと上った。
利生寺の前に車を置いて、トンネルの方へと歩いてみることにした。強い日差しが薄くなった頭の天辺を焼く。汗を拭いながらトンネルへの坂を上ると、キウイの実がウズラの卵くらいの大きさになっている。トンネルの向こうからはウグイスの透き通る鳴き声がトンネルを突き抜けて聞こえる。中はひんやりとした空気が汗ばんだ頭を冷やして気持ち良い。
薄暗い中から見るトンネルの向こうの世界が光と影の強いコントラストをみせて夏の景色になっている。ついこの前に見た青い新緑がいつの間にか落ち着いた色合いになって、太陽光線をしっかりと吸い取る緑になっている。
冷ややかなトンネルの空気がまるでクーラーの風のように気持ち良い。


トンネルの向こうも木々の枝がつくる緑のトンネルが続いていた。ウグイスは左の谷の杉林の中で鳴いている。立ち止まってその方向をしばらく見ていたが、ウグイスの姿を見つけることは出来なかった。
木漏れ日がゆれる道をゆっくりと歩く。全く時間を気にする必要がない今を楽しんで、何の汚れも感じられない空気を吸い込みながら自分自身を浄化されたくて・・


高い太陽が鋭く木々の葉を突き射して、その葉毎の緑を目映くみせて、私を引きつける。
頭上を見上げてシャッターを押す。鋭い緑のスペクトルが暗く沈んだ影の中に鮮やかに輝いて、カメラにその一部を射込む。

あっちもこっちも光が揺らいで、美しく輝いて、瞬間の美を競い合う。

その様を見逃すまいと忙しく首を振り回す。
ウグイスがそれを見て笑っているかのように鋭い鳴き声を響かせる。

美しい世界の光を心ゆくまで楽しんで、良い気持ちになって行く。車の気配も人の気配も何もなく、自分しか居ない地球を独り占めしている様に錯覚する。木漏れ陽が時折小さな地上の葉っぱを照らして何処かへ消えて、また戻ってくる。誰かが懐中電灯を振り回して私をからかっているのかもしれない。

音を忘れかけた空間に突然風が舞って、枝を揺らす音が聞こえて、その瞬間人が恋しく感じていた。

池の土手近くまで歩いて来たら木陰にシャガが群生している。それを見ていたら大きな目玉の糸トンボが私の目の前をゆっくりと遮ってシャガの葉っぱの先端に着陸した。美しい姿を凄く近くで観察できるチャンスが目の前にある。

なるべく身体を動かさないで、息を殺して、ゆっくりと頭だけを糸トンボに近づける。金色に輝く大きな目玉はカマキリに似ていると思ったが、全体のバランスがとても可愛くカマキリのようなふてぶてしさは微塵もない。

スーッと細長い胴体は5本の黄色い帯で区切られ、電車の踏切の棒のようにも見えて滑稽である。今ではめずらしくさえなった糸トンボを手の届く距離で観察できた。


国東町赤松・・利生寺の裏から岩屋へ抜ける道があって、素堀のトンネルがある。このトンネルから少し下の溜め池までゆったりと歩いてみた。気持ち良いかぜと光が私の疲れを汗と共に完全に蒸散させてくれた。4十数年前に山本さんが歩いたであろうこの道で宇宙空間のように気持ち良い無重力の世界を味わった。・・散歩の距離=往復で4百メートルかな?