目次へ 安岐町/小川のからす市 sub3-27 2003年1月11日


比較的暖かい一日だったが、日が沈む頃から霧のような細かい雨が落ち始めた。
今日は、西小川商店街を中心としたからす市がたつ日だ。早速小銭をポケットに突っ込んで家を出た。私の家から西小川の商店街へは大道を通る。ここには老舗の造り酒屋が立派な構えをみせている。その造り酒屋の屋号は松島屋。どっしりとした店の前を通り、高橋自転車屋の前を抜けると安岐川に架かる小川橋を渡る。

正面は呉服商の佐藤があり、その手前の右手は大分銀行でその左手は吉松の谷から流れ出す川に橋が架けれて、その橋のたもとには橋本商店と散髪屋の橋本があり、その向かいには鍛冶屋旅館がある。

屋台はすでに裸電球に照らされて、明々と町筋に連なっている。大勢の人が行き交い、屋台から発するいい匂いが道筋いっぱいに広がっている。綿飴や焼きイカや林檎飴を売る屋台に子どもたちは立ち止まり、ポケットの小銭を数えている。

人の流れに身をゆだねながら西本呉服店の前から西小川商店街方向へ右折して押し出されて行く。ちょうど角を曲がりきったあたりに10円くじの屋台がところ狭しに魅力的なおもちゃをぶら下げて子どもたちを引きつけている。私たちは10円玉ひとつをおじさんに渡しては段ボール箱の中に手をつっこんで三角のくじをひとつ引いて、わくわくした気持ちでそれを開く。ほとんどが外れくじだが、並べられた景品の魔力に誘われて次々に10円玉がおじさんの手で吸い取られて行く。ついつい熱くなる気持ちを押さえて、残りの小遣いをポケットに突っ込んだ右手で数えながら、次の出店の事を思う。それでも、ここに飾られたロボットや鉄砲やブリキの自動車が私を放してくれない。しっかりと小銭を右手で握りしめたまま他の人があける三角くじをのぞき込んではため息に加勢した。

20分か30分だったか、ひょっとしたら1時間くらいはここで人の夢に付き合ったのだろうか。少し何かを食べたくなって、その先にある綿菓子を買った。10円玉を3つ渡して、割り箸の先にふんわりと巻かれた綿菓子をもらう。甘い香りがして、少し暖かくて、アッという間に消えてしまった。

上の方には瀬戸物と植木が並ぶ。瀬戸物には興味はないが、山のように積まれたお茶碗やお皿を、威勢の良いお兄さんやおじさんが大きな声で歩く大人を呼び止めている。
その様子を見ていると、親戚のおじさんが私の頭を叩いて声をかけてきた。そして、小遣いをいただいた。

そいつを握りしめて、また性懲りもなく先ほどのくじを目指す。賑わいは変わりなく、店の前には開かれた外れくじの紙がたくさん散らかっている。どうせ当たりはしないと思いながら、もう一枚だけ買うことにした。今までのどの10円玉よりも強い願いを込めておじさんの手に押しつけて、箱の中へ手を突っ込む。少しだけ指で探って一枚を選んだ。当たりを願いながら三角くじのまわりを引き破いて開いたが、やっぱりはずれだった。
やっぱりと思いながらやっと諦めがついた。

立ち上がって、ふとまわりを見渡すと、そこには誰もいなかった。薄暗い商店街の抜け殻の間を冷たい風が吹き抜けて、その後を追うように軽トラックが通り過ぎていった。

からす市は遠い思い出。その思い出を必死に取り戻そうと足掻いている若いエネルギーが見えるが、こいつは少々手強い。

時代の流れが年月をかけて削り取っていったからす市の賑わいを連れ戻すには形だけでは刃が立たないだろう。それでも夢を追いかける。夢は追いかけて夢。置き去りにしてただの思い出。

からす市・・なんだったんだろう?

遠い昔の思い出。今日の西小川にはからす市の為の屋台が2つあったが、7時には真っ暗になっていた。

明日、もう一度覗いてみよう。賑やかなからす市があるのかもしれない。