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白地 黒地
岩倉社祭事 昭和33年 古江下組トウバ時の記録

9月祭(ケベス祭)
  旧暦9月15日
 祭りの間、トウバグミの祭事に参加する者すべ
ては、事を慎み、他人の火で調理したものなどを
口にしない。

    9月 初旬 大世話人選出  籤によらず、皆の意見(推薦)で決定される。

勘定方選出

        8日 サカベヤつくり  母屋の軒下に1軒幅、高さ9尺のトキワ(茅)で
サカベヤ(酒部屋:甘酒を置く小屋)を造る。カ
ムホヤ(神穂屋)とも呼ぶ。
内部には、棚を造り、枡に納めたジンドウサマ
(神導様:猿田彦面)を飾り、お供えをする。

トウバモト御籠
 (おこもり)
 夕刻、トウバ(当場:祭りを担当する集落の組
組織)の戸主達は、夕食を済ませ、本社の籠屋に
翌朝まで籠もる。


      9日 役決め  早朝、神主のお祓いを受け、オカヨ、オカヨの
スケ、トウジ、トウジのスケ、を神主の吊籤で決
める。
オカヨ、オカヨのスケとは、神饌(神へのお供え
物:神の召し上がる食物)を準備する役割、主担
当とその助手。
トウジ、トウジのスケとは、甘酒を仕込む係りと
その助手。

ミヤノボセ  ジンドウ様の面他、御供えつくりに用いる諸
道具であるセイロ、御供櫃などをトウバモトの手
によって運び出す行為、その行列。ミヤクダリと
もいう。

 宮付の御供所係がジンドウサマの面を枡に入れ
て、梅ノ木他、道具と共にトウバモトに運ぶ。

 運び出しの隊列は、ジンドウサマの面、太鼓、
鉦、旗、蒸篭、甘酒桶、御供櫃の順。

 トウバモトの家は、カメモトと呼ばれ、不浄を
嫌った。

 トウバモトとは、宮付の家、あるいは、トウバ
グミの組長宅を指す。

ジンドウサマへの
  御供え
 オカヨはサカベヤに来てジンドウサマにお供え
をする。
以降は、毎日シオカキをしてお宮に参り、それか
らジンドウサマにお供えを供える。オカヨは他人
と火を交じ合わせてはならない。

9日
 前後
タマギリ  トウバの人々により、宮山からシダ500把ほ
どを切り出す。

11日 甘酒仕込み  トウジとトウジのスケがトウバモトの家で甘酒
を造る。仕込みは、真柴を口に咥え、話をしては
ならない。
仕込んだ甘酒はサカベヤに納められる。

13日 ヤサイモライ
 (昼頃)
 トウバモト以外の組から、大根や白菜、枝豆他
を集める。集めた野菜は、御供所と籠舎の間の土
間に運ばれ、トウバモトの女性達によって洗われ
る。

シオカキ
 (夕方)
 トウバモトの成年男子がトウバモトに集まり、
揃ってシオカキに行く。

ケベスドンの決定  白無垢に着替え、トウバモトの家に戻り、神主
がお祓いをし、吊くじでケベスを決める。

御供えつくり  ケベスが決まると太鼓が打ち鳴らされ、オカヨ
とオカヨのスケが御供え餅の米を蒸す作業に取り
掛かる。

 この作業に手間取ると、ジンドウサマの顔色が
変わったとイジメられ、その声が発せられると再
びシオカキに行った。

 蒸し終わると、長さ4尺程の椿の千本杵で餅を
搗く。※この作業も、口に本柴を咥えて、無言で
行う。

 餅は、直径7寸の鏡餅3重、4寸が5重、オク
ツガタ260個つくる。さらに、餅米にうるち米
の粉を蒸した米粉餅を加えて搗いた餅でオナワモ
チ130個をつくる。
餅つきが終わると太鼓が打ち鳴らされ、その後、
ケベスの所作(練り)の練習が、トウバモトの指
導で行われる。

14日 シオカキ
 (早朝)
 早朝、オカヨ、オカヨのスケ、大世話人、トウ
ジ、トウジのスケ他、御供えに関わる人々がシオ
カキに行く。
シオカキとは、神社の背面(北)の海に全裸で入
り、身を清める儀式。禊ぎ。

御供え準備  御供えを御供櫃(穀櫃)、餅を送り桶、甘酒は
ニナイに収める。

食事(昼前)  トウバの人々は、11時ごろ食事をとる。神主
と御供所係にはトウバモトが食事をだす。

シオカキ  トウバモトの家に集まり、揃ってシオカキに行
く。戻って、神官よりお祓いを受ける。

ミヤノボセ
 (昼過ぎ)
 大方昼ごろ、行列がトウバモトの家を出発し、
御供所へと向かう。

 隊列は、9日の朝と変わりなく、オカヨ、旗、
ジンドウサマ、オカヨのスケ、トウバの若い衆が
餅、トウジとスケが甘酒を運ぶ。隊列最後に、神
主、太鼓、鉦、トウバモトの若い衆が続く。途中
地面におろしてはならない。

 御供え物は、御供所に置かれる。

直会(5時)  5時ごろから社務所内で行われる。参加者は、
初祭やオンバレマツリに同じ。約1時間程。

シオカキ
(6時半)
 午後6時半ごろ、トウバの人たちは、白無垢で
シオカキに行く。(一糸まとわぬ姿で海に入り、
身を清める行為)

御供え  御供係が社殿内に御供の棚が設けられ、左から
塩と水・魚(ヒラメ)・御供・甘酒(桶)・鏡餅
・ナワモチ・クツガタモチ・橙・大根・昆布など
を八足に三宝を載せ、その上に供える。

 棚(八足)の前には御幣が立てられる。右手に
は、三宝にケベスの面と玉串が載せられている。

着座・座列  左手には、区長以下社総代他、宮付のミコシカ
キ(オミチュウド)、右手には、神主、副社掌、
大宮司、小宮司、御供所係、御供所係のスケ、太
鼓、笛、鉦の楽士、ケベス係の順に宮付が連なる。

神事(7時)  神主のお祓いで始まり、大宮司が祝詞を唱え、
小宮司が参列者を祓い、神主が祝詞を唱える。

 神主が玉串を捧げ、続いて、区長、社総代が玉
串を捧げる。玉串を捧げ始めると、社殿の下にい
るトウバの人々は襷をかけ、頭に手ぬぐいを巻き
締める。

 オカヨがトウバ組を代表して玉串を捧げる。

 神主は、トウバの人々を清め、トウバの注ぐ甘
酒を飲み、続いて、ケベスが甘酒を飲む。

 ケベスは、神前に供えたあったケベスの面をつ
け、衣装を着ける。

 これらが行われている間に、オカヨは拝殿左手
の若宮の前に積まれているシダに御供をたいた火
を放つ。

 神主が火を清める。

行列の開始
 (8時)
 ケベスを中心とした練楽の行列が始まる。

ケベスの練楽  隊列は、楽士の太鼓、笛、鉦、大宮司、小宮
司、区長、社総代、御供所係、御供所係のスケ、
ケベス、ケベス係、神主、一般の人々と続く。
昔は、神主に続いて宮付の家の子供が10人ほど
付いたと云われる。

 ケベスは、肩に椿の木の棒(カリマタ)をの
せ、棒には藁つとをぶら下げている。

 隊列は、太鼓、笛、鉦を賑やかに鳴らしなが
ら、中庭を二周りし、3回り目にケベスはカリマタ
(椿の木の棒)を地面に擦り付けながら燃えて
いる火に向かって走りこむ。

 火の回りにいるトウバ達は、火に走りこむケベ
スを手に持った棒で受け、押し戻す。

 押し戻されたケベスは、ケベス係の手に引かれ
て隊列にもどり、静かに中庭を2周し、3周目に
再び燃え盛る火に向かって走り込むが、トウバに
押し戻される。

 この所作を3回繰り返し、合計9回目で燃え盛
る火の中に飛び込んでいく。この時には、トウバ
はケベスをとめない。

 トウバは、シダひと把をケベスの足場として、燃
え盛る火の前に置き、ケベスは、そのシダを踏ん
で燃え盛るシダをサスマタで引っ掻き回す。

 ケベス係りがケベスの手を引いて、西門、御供
所前、拝殿前の3箇所に連れて行き、そこでケベ
スは、藁づとを地面に3回打ち付ける所作を行
う。音が良いと年柄が良いといわれる。
これでケベスの所作は終わる。

 拝殿の前でケベスの面を取り、面は御供所に収
められる。

火の祭典
 (9時)
 ケベスが、最後に火に突入した後、トウバ達は
火のついたシダの把を棒に引っ掛けて、宮の境内
を駆け回る。

 回廊の見物人を脅かしながら、暗い境内に火の
粉を撒き散らし駆け巡る真っ赤な炎が美しい。

 3番太鼓が鳴らされ、走り回っているトウバが
戻ってくる。

 この頃、境内では芝居が始まり、日の祭典を見
物していた人々は芝居小屋へと移って行く。

 この夜、オカヨとオカヨのスケは御供所に泊ま
る。

本祭
   15日  朝、トウバの子供達が、境内の掃除を行う。

シオカキ
(朝)
 大宮司、小宮司、オカヨ、オカヨのスケ、御供
所係、そのスケの6名は、シオカキをしてお供え
の準備に取り掛かる。

御供え  お供えは、三宝の上に境内の杉の葉を敷き枡に
入った飯をオシヌギに詰め、形を整えたものの周
りを山形の紙で覆い、新藁で結び、中央に置く。
その左の隅にオナワモチ10枚、左の隅にクツガ
タモチ10枚と栗の板3本を置く。右上は蜜柑、
枝豆、柿、栗がそれぞれ並べられる。

 それぞれ、本殿に3つ、若宮に4台、高良様に
は二つ合わせた2膳盛を2膳、山の神には2膳盛
を1膳、明神には1膳、ジンドウサマには1膳、
山の神1膳を供える。

神楽
(8時)
 お供えをしている間に、神楽殿では宮付の家の
若い衆12人によって、神楽が奉納される。

 神楽は、宇佐神宮から元禄12年に伝わり、始
められたと伝えられる。
 神楽の次第は、祓、一番神楽、花神楽、結開、
手草、四豆手、六大臣、みさき、一番鉾、四ツ
鬼、二番鉾、児屋根命、戸取り、〆切りの14で
ある。

オミユキ
 浜殿への
   オミユキ
 お供えが終わるとオミユキに移る(神楽は、オ
ミユキに並行して進められる)。


 神輿への
   神移し
 オミチュウド(神輿担)が神輿を申殿に上げ、
3つの神輿に、神主・大宮司・小宮司の手によっ
て、御神体である鏡が移される。

 3つの神輿は、オミチュウドの手により中庭に
並べられる。

 神輿には、トウバモトの若衆により柄の長さ9
尺程の台傘がさしかけられ、神主にも同様の台傘
がさしかけられる。


 行列の出発
 (午後2時)
 行列の先頭は、塩桶を持ったオカヨが、榊で塩
水を振り清めながら歩き、トウバモトの子供が7
本程の幡を持って続く。

 さらに、楽士の笛・太鼓・鉦のお囃子、トウバ
モトの人が担う御供櫃、白い布で包んだジンドウ
サマの面を左手に抱え右手に御幣の付いた4尺程
の梅ノ木の棒を肩に載せた御供所係、その後に、
大宮司、小宮司、神輿、神主、区長、総代、トウ
バモトの人々、一般の参詣者と続く。 神輿の脇
には鉾立てと傘台が付く。(かつては、先頭のオ
カヨと幡の間にケヤリガ入った)

※御供櫃の中には、御供と共に、大宮司、小宮司
の手で作られた藁の人形がおさめられている。


 浜殿  社殿裏手50mほどの海に面した場所。5m×
10mで周りを石で区別してある。


 浜殿での配置他  前の日に、トウバモトにより四隅笹竹が立てら
れ、注連縄が張りめぐらされる。

 オミユキの行列が到着すると、オカヨが榊の
枝に塩水をつけて振り、浜殿を清める。

 幡は浜殿右側に立て、幡を持ってきた子供はそ
の傍に立つ。

 お囃子は、浜殿左の入り口当たりに立つ。

 右側に区長・総代他が並ぶ。

 御供櫃は、中央神輿台の左に置く。

 ジンドウサマの面は、梅の棒と共に神輿の前の
台に置かれる。

 太刀や金属の御幣神輿台に置く。

 御供所係とそのスケは、御供櫃から御供を出
し、大宮司・小宮司は、それを神輿の前へ並べ供
える。


 祝詞・玉串奉奠  神主が祝詞を奏し、玉串を奉奠する


 神楽  オミチュウドの中のリガクシの役(吉武氏・中
村下組)が出て神楽を舞う。(平服のまま、5分
程度の神楽)


 獅子舞  旗持ち以外のトウバグミの子供が獅子舞をす
る。獅子は、頭と尻の二人一組が二組。鬼は鬼の
面をつけた子供二人の計6人。
獅子舞は、鬼が獅子に征せられて終了となる。

※茅の人形は無く、藁で人形をつくる。マクワウ
リの輪切りは無く、チノワクグリも無い。


 オミユキ
  (戻り)
 これらの神事が終わると、御供えは御供櫃にお
さめられ、諸道具共に、元来た道順で神輿と共に
宮へ戻る。
 神移し  神輿は、神移しによって御神体である鏡を移さ
れ、神輿はトウバの人の手によって神輿庫へおさ
められる。


 直会  神官・宮付・区長・総代が列席して、社務所で
直来を行う。


 御供えの配分  神主は、本殿に供えた3つの内の1つと鏡餅
(7寸)と甘酒1樽をトウバが自宅へ届ける。

 大宮司、小宮司、若宮付、高良様付、山の神
付、御供所係は、それぞれ鏡餅1つとオクツガタ
5枚、オナワモチ5枚、甘酒1樽、野菜、御供え
少々。

 区長、社総代、オミチュウド、楽士は、小さな
御供え餅1つ、オクツガタ3枚、オナワモチ3
枚、御供え少々。そのほかの櫛来地区民には、組
長を通してオクツガタ半枚が配られる。(組長は
1枚で、残りはトウバへ返される)



 祭りの終了