2009年3月28日(土曜日)曇り ・・ 国見町 旧千燈寺址から五辻不動を歩く
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護摩堂跡と仁王石像


高い石垣の下に「千灯寺址」の説明書きがある。以下はそのまま転記したものである。

(県指定)千灯寺址(史跡昭.四七.三.二一)
千灯寺は天台宗六郷満山二十八ヶ寺中の本寺で末寺十六ヶ寺があった。山号補陀落山 寺名、千灯寺 開基仁聞 天正年間大友の兵火により本末寺院仏閣並に寺領千石共没収され寺僧離散し廃寺となる。

文禄年間再興に向い当時七堂伽藍を擁し衆無の崇敬信仰篤く中興なるも明治維新後末寺分離した。近くに仁聞の墓 五輪塔群 奥の院 六所権現 仁聞入寂の岩屋がある。

 国見町教育委員会 昭和五十三年三月三十一日

千灯寺は、キリシタン大名で知られる大友宗麟の、神社・仏閣破壊の災いを受け廃寺となったが、杵築城主の城代松井佐渡守康之によって再興された。松井康之とは、関ヶ原戦の後の慶長五年木付(杵築)城代として国東をを統治し細川忠興の命を受けて、大友宗麟によって荒廃した神社仏閣の再興に努めた人物である。

石垣を横目に5m程歩くと仁王さんの顔が見えてくる。今日の仁王さんは幾分苔生して頭が薄い緑色になっている。仁王さんの向こうには藪椿の赤い花が落ち着いた色数の少ない世界に光明のように輝いて見える。

ここは、旧千燈寺護摩堂跡と記されている。

境内は綺麗に掃除がされており、何時訪れても気持ちいい空間を保っている。ここを守っている皆さんに感謝する。

境内には、正面に数段の石段があって、それを上がると目の前に仁王さんが立っている。
この仁王さんは高さ約180cm、幅80cm、厚さ30cm程の石板に半彫り(レリーフ彫刻)された比較的珍しものである。

それぞれの像高は、阿形の仁王さんが160cm、吽形の仁王さんが165cmである。像立年は定かではないが、鎌倉期(1200年から1400年)と伝える文献が存在する。

半彫りであるが故に、宙に舞う天衣は優美な曲線を描いたまま残されている。国東半島には多くの石像仁王像が見られるが、私のもっとも好きな仁王像である。

書籍「国東 古寺巡礼」 昭和六十一年四月一日 
著者:渡辺克己氏は次の様に書いている。

「豊鐘善鳴録」に、仁聞菩薩と千燈寺の創始のことが詳しく書いてある。それによると八幡大神の応化である仁聞は、養老の初め国東六郷の間を遊化して霊場二十八所を開き、六万九千余体の仏像を刻んで安んじたあと、華厳、覚満、体能、行満の四大徳をともなって伊美の五智窟に登り、不動法を行じた。
この時東北海の竜王がその徳を慕って一千の燈を献じた。その霊応にちなんで寺名を千燈とした。山号を補陀落山としたのは、千手千眼観音を安じたからである。仁聞は某年十月六日千燈の窟に入定した、とある。

これが千燈寺創始のいわれである。六郷山のほとんどの寺院は仁聞が養老二年(七一八)に開基した伝承を持っているが、千燈寺の仁聞とのかかわりは最も濃いのが特徴だ。寺名のいわれも、仁聞の徳を慕った竜王が千の燈を献じたのによるという、まことに壮麗なロマンにいろどられていて魅力がある。

※豊鐘善鳴録は今でも購入可能。今日現在の古書通販価格で42千円程。


「国東古寺巡礼」を手に入れて、旧千燈寺の歴史にふれた。今日は、この本を抱えて氏の歩いた道を辿っている。

境内には、大きな銀杏とヤマモミジの木がある。そのほかに、藪椿の木があるが、この藪椿は下枝が落とされて足下が寒そうに感じる。西側から仁王の向こうに見える真っ赤な椿の花が絵になるのだが、下枝は残念でしようがない。そのうち枝が生長することを期待しよう。



普通は、仁王の前に立ってガランとした護摩堂跡の境内を見渡すのだが、護摩堂跡の石段の奧から仁王の背中を眺めるのもまた良い景観である。石段の上に腰を下ろして、この景観を眺めていると、護摩堂に居て境内を見ているような錯覚に陥る。天気が良い日は、ここに1時間や2時間居ても、あっという間に時間が過ぎていく。

ここで、補陀落について少しふれておこう。これも【古寺巡礼】による知識である。

古寺巡礼によれば、補陀落山の山号は千手観音を本尊としたからだとしている。補陀落(ほだらく)とは、観音様の住む浄土の事で、インドの天竺(てんじく)南端にある聖なる山と云われる。この地名の云い伝えには、他に、中国大陸の南方海上、舟山列島の中にとも云われている。補陀落とは観音信仰上の空想の浄土ということになる。この地にあこがれて、観音信仰が生んだ補陀落の名の聖地や寺院が全国に数多く存在するとある。

西のはての国東半島のこの地が遠くインドや中国と結びつく事に不思議を感じてならない。

古寺巡礼の著者渡辺克己氏がここを訪れたのは紅葉美しい秋の頃だったが、今日は新緑の目映い清々しい季節である。見上げれば、黄色く芽吹き始めた銀杏の木に若葉を広げ始めたヤマモミジの若い緑が美しい。仁王の頭にも天井の緑色が映ったのか、やや黄緑がかって見える。




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