2002年2月17日(土)小春日和で始ま
り、夜更けと共に雲がかかり、深夜には小雨
となって行った。ここ成仏は、国東半島の中
心に近く、田深川の源流である犬鼻峠から東
へ1kmほどの谷間に位置する。四方を両子
山、文殊山、小門山、大嶽山に囲まれ、日頃
はひっそりとした山間集落である。
この日、修正鬼会の取材を軽い気持ちで思い
立ち、14時頃に成仏寺へ到着した。谷間の
村はいつもと変わりなく、田んぼのあぜ道に
は菜の花が黄色い鮮やかな色を飾っている。
早速、車を道路脇に止めて成仏寺へ向かうと
境内はすでに準備が整い、大勢の村人や協力
関係にある天台宗の和尚連中が集まっていた。 |
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大変な行事との事前知識を少しばかり仕入れてきたが、この段階では特にそれを感じることは無
かった。少々酒の入った某寺の和尚が村人と楽しそうに語らっていた。15時頃だったろうか、
読教が始まり、徐々に空気はその流れを止めはじめ、気持ちを高ぶらせて行く。しばらくの時間
たき火にあたりながら読教の響きで気持ちを鎮め、修正鬼会の世界への期待を膨らませる。今日
は、炎と闇と勝手な事を思い、自然のままに光を捉えたいと、デジカメのストロボをOFFにし
て、シャッター速度を1/30sec CCD感度を設定上限のISO800相当にセットした。も
ちろん、ノイズは覚悟の上である。男たちが持つ松明の照らす世界を捉えたく、カメラの設定を
決めた。
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午後6時半、半鐘の音と共に褌一つのタイレン(たいまつ入れ衆)他20名あまりが松明を振り
かざして田深川に設けられたコーリトリブチ(垢離取り渕;御幣と注連縄で囲われた聖域)へと
走る。
昼間は暖かい小春日和であったが、この時間は見ている我々も震えるほどの気温は下がっている。
また、谷川を流れる水は身を切るほどの冷たさで有ろう。この冷水に裸の男たちはなんの躊躇い
も無く飛び込んで行き、身を清める。松明の明かりを鈍く跳ね返す水面に男たちの雑念と邪気が
洗い流されて、修正鬼会のタイレンへと化身して行く。
夜を徹して行われる修正鬼会は、ここからクライマックスへ向かって上気してゆく。 |
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国東半島では、鬼会を『オニオ』、『オニヨ』と発音する。
この行事は、国東半島特有で、ここに登場する鬼は悪として嫌
われる鬼ではなく、村々から災いを追い払い、五穀豊穣を招く
福である。
厳格な宗教行事の主役を演じる鬼は、仏の功徳の化身。六郷満
山の鬼会は、開基した法蓮と仁門が難行苦行の末に、仁門は黒
鬼(不動明王の化身)に法蓮は赤鬼(愛染明王の化身)になっ
て登場すると言われる説もある。
大分県教育委員会『国東半島の修正鬼会』では、平安末期には
この法会が行われていたと分析している。
鬼会は、トシノカンジョウ(年の管掌/総指揮役)、まかない
かた(賄い方)、はやしかた(囃子方)、テイレシ(松明入れ
衆)などの役付きと寺の住職が身を清める事からはじまる。そ
れは、前年の十二月一日に寺の門前にある川のコーリトリブチ
(垢離取り渕)で身を清め、精進潔斎に努めて、更に、鬼会前
一週間は女性との関わりを絶ち(女性のつくった食事も食さず)
殺生せず、肉を食さず、神聖な行事への身支度を進める。とあ
るが、今時点でこれが守られているかどうかは知らない。 |
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当日は、昼頃までに各
寺院から協力関係にあ
る僧が集合し、経堂で
前段の行法が行われる。
太陽が両子山に隠れ、
夕闇の迫る頃、トシノ
カンジョウと十二人の
テイレシによるコーリ
トリ(垢離取り)が行
われる。僧による法螺
貝と鐘を合図に、たい
まつ片手、褌ひとつで
山門からかけ下り、田
深川に設けたコーリト
リ渕に塩をふって清め、
飛び込んで水垢離を取
る。テイレシ(たいま
つ入れ入れ衆)は役の
衣装を身にまとい、院
主、僧侶達とのさかず
きの儀が執りおこなわ
れる。 |
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厳格な手順と作法で行われるこの儀式は、
生身の人間が修正鬼会の仏世界で、仏の使
者として行動するための重要な儀式と位置
づけられる。
今日の為に飾り付けられた経堂に鬼会面が
まつられた祭壇の前で、僧とテイレシが向
き合い、はりつめた空気の中に、盃を運ぶ
少年の足袋と畳が擦れる音だけが経堂を充
たす。 |
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この儀式終了の後、早鐘と法螺貝のの合図で、テイレシはタイアゲ(たいまつ上げ)を行う。
準備した大たいまつに火をつけ、立て並べる。この間、トシノカンジョウは囃子方を従い、僧
侶は金糸銀糸で飾り付けた法衣に身を包み、経をとなえ、法螺貝を吹きながら、タイアゲを見
守る。
それは、死者の霊を弔う儀式にも、収穫に感謝する神儀にもみえる。煌びやかにも、幻想的に
も、寂しい野送りにも見える、不思議な世界である。
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根性なしの私の取材は、午後8時半で終えた。ここからが修正鬼会の本来の目的で有ろう
無病息災、五穀豊穣を願う長い読教が続き、鈴鬼の舞、荒鬼の舞、・・・東の空が白むま
で続けられる。 |
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