sub8ti92



のこりハゼ



笹波が入江のうえを刷毛でなぞるようにわたったら 砂のあいまを 魚身

ほど乗り越えるハゼがある


ハゼは とくに青みを帯びた深みを避け 風の吹き込む方へ泳いでいく


巡洋艦をとり囲んだ駆逐艦のように 周辺にいるのが小さい


やがて

梢の上がピタリとうごかなくなって

水面は

油をながしたような風にかわる


堤防のかげがうつり

立樹でさえぎられたビルの塗装が 水のなかにさかさにうつる


飲み屋で刺されて

犯人もわかってにのに

どうしてか

風景だけはおだやかになってしまう


ハゼの大群は そのとき 一匹も姿をみせない

流木のうえを

ググダイの白いはらがうごいている