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のぞきえび



「灯だ」

はじめて見たものは たいがいそういって騒ぐ


舟に乗っていると そうは見えないのに 陸からだと 波の上まではじけて

みえる


石がとどくところへは近づかないので おそろしくはないし まして海のう

えだから どうということもないが くらい波間の灯は こげ茶のふちを青

でかこって光りつづける


「のぞきえびですよ」

土地の者なら すぐそう言う

稲刈りがおわり 祭りが近づき 夜はひえこみがきびしくなりはじめた頃

このえびがあらわれる


ひかっているのはえびの眼だ それも五匹 十匹ではなく えびのかたまり




このえびは ひどく沖には出ず 渚よりややはなれた距離を移動する

北の岬からはいって南へぬける お神迎だと古老は言っていた


灯だけがみえて

波を照らし出さない 生きものと灯のちがいだ