sub8ti70
わらいハゼ |
松葉の落ちこむ入江に住む やみよよりは三ケ月をこのみ とくに山の端にかかった三ケ月は最高とされ ている 人家と松の枝と糸切り月が このハゼをわらわせる 漁師たちは かん木のかげにござむしろをしさ しようちゅうを傾けながら 干潟の気配に耳を澄ます やがてくらいひがたに まるまるふとったハゼがあらわれ 糸切り月にむか ってとびはねる すると あるかないかに水をたたえた水面から おびただしいわらいハゼの頭がうか ぶ 「これで越年は平穏だ」 漁師たちは ひやけ顔をほころばせてきんちょうをとく そのとき あれがハゼのわらい声かといぶかるようなわらいが 老松の枝の 上を くらい入母屋の屋根にむいてとびかっていくという もし そのとき 入江の方をみようものなら わらいハゼの頭の数だけ 水 面にさまざまのまるい輪をみることができる 三ケ月のへりが その輪にう かんで 金環食さながらですと古老は話してくれる |