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わらいハゼ



松葉の落ちこむ入江に住む

やみよよりは三ケ月をこのみ とくに山の端にかかった三ケ月は最高とされ

ている

人家と松の枝と糸切り月が このハゼをわらわせる

漁師たちは かん木のかげにござむしろをしさ しようちゅうを傾けながら

干潟の気配に耳を澄ます

やがてくらいひがたに まるまるふとったハゼがあらわれ 糸切り月にむか

ってとびはねる

すると

あるかないかに水をたたえた水面から おびただしいわらいハゼの頭がうか



「これで越年は平穏だ」

漁師たちは ひやけ顔をほころばせてきんちょうをとく

そのとき あれがハゼのわらい声かといぶかるようなわらいが 老松の枝の

上を くらい入母屋の屋根にむいてとびかっていくという

もし そのとき 入江の方をみようものなら わらいハゼの頭の数だけ 水

面にさまざまのまるい輪をみることができる 三ケ月のへりが その輪にう

かんで 金環食さながらですと古老は話してくれる