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だれ助



名を聞いたばかりに この土地ではひとが殺された 聞いた相手がわる

かった 以来 この土地では ひとに名を聞くことをきつくいましめた

生まれた子にはすべて「だれ助」と名づけた 親も「だれ助」子も「だ

れ助」よめも「だれ助」娘も「だれ助」

「だれ」というのは この土地の者を呼ぶことばで 不明の相手に声を

かける言葉ではなくなったのである

「だれ助」たちは ひどく同属意識をもち「だれ助」以外とは口をきく

ことを極度に恐れた なかでも 名前のわからぬものには 不信以上の

殺意を抱くようになっていた

ちらと見た以上 かたくなにおしだまる 人々を外来者は「おしの部落

の人」とよんでいた

このことは 外部のものにも 土地のものにも決してよいことばかりで

はなかった

だれ助たちは やがて外来者を殺害しはじめたのである

だれいうとなく「おしの部落へはいったら出てこれない」ことがうわさ

になっていった

犯行があって 犯人のわからない殺人

未知の顔が すべて「だれ助」である土地は やがて地獄谷と呼ばれは

じめていた