sub8ti63



           すねねずみ



頭が大きくて デメキンに似ている

水をわたるのが好きで

ことあるごとに 藪を出て向う岸へ泳ぐ

学校帰りが 川べりの藪に石をなげると

たいがい

一、二匹とびでて川を泳ぐ

台風のまえ

入江にはいる波がしらを渡るのは壮観で

風にさからう波濤と

怒髪のように

のびでて揺れる水しぶきのなかを行くのは

神話の国に焦れた感がある

まみずのときはすぐかわくが

潮のときは ぬれがとれぬので

漁師部落によくはいる

「シッ」

と追いたてると

くるりとねがえって じっと見ている

そのへんがぬれるからと 敷物をひくと

わざわざ 敷物の外へ出てすわりなおす

漁師たちは 網をすきながら

すねねずみを相手にときを過ごす

海岸の家に家ねずみがいないのは このねずみにおそわれるからで

猫のためではない

漁師と魚とすねねずみとは

ながいっきあいで

「すねねずみ」というのは「すくいねずみ」すくいを求めてくるね

ずみのなまりだという説がある

こどものない家では このねずみを飼いたがる人もあるが

どこぞへきえて

ふだんはみつけることはまれだ