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           月へび



常緑樹のしげみのなかにいるが これに会うのは山桃ぐらい

で 他はしられていない

「ひわかれ」といったり

「くちなわ」といったりするのとは別で

「月へび」は

夜しか地上に出てこない

おくびょうなへびのなかでも とびきり憶病で 昼間は山中

の岩穴に住む夜行性のへびである

月へびに会うのは闇の中で

首すじに

ぞっとする寒さをおぼえたら上空をむくといい

ちょうど

稜線か 梢越しに

糸切月がかかったように

月へびの腹がひかっている

といだ鎌のようだというひともある

月へびは枝をつたうが

ある距離は跳ぶことができる

ひかるのも

ぞっとするのも

このときで

三十数年まえ

月へびの群れにあったというひとの話をきいたことがある

矢のように

きらめいて

谷を越えた

つぎの日 みると

しいの立樹をつたっていったのだったという

ながくはないが

たまごがたのかおと しろみをおびたあごは一種独得である