sub8ti31
かにづて |
夕凪ぎの頃 漁師は浜でつぎの日の天気を占う 天気が漁を左右し ときには 自分のいのちをもっていく そんな 海の男の足もとで かにづては 砂に 字を書いていく かにづては あかみを帯びて 小さい 波の下からはい出るようにあがってきて あしさきで まるい字をつくる だいず玉ぐらいの大きさだ かにづての文字は まもなく波が消していくし かにづても 文字の国に消えていく 漁師たちは 沖に目をやり ふみはだかって立っているが かにづてのうごきをみすごすことはない うごきのひろさ かく時間 かにづてのあがってくる位置 かくれ方 それらのひとつひとつで 明日の潮 日没 日の出 風むきがきまる ことば少い生きものになって かにの伝言をきくのである |