sub8ti19



            むねえび




瓦屋根になってから漁師の家でもしゃちをあげるが もとはえびをむねにあ

げていた

めでたいときにつかうのは

えび

たい



「しゃち」は本来 このまれなかった

もともと

引出物にも つつみ紙にも あかいえびはっかわれたが 「しゃち」のもよ

うは っかわれなかった 漁師に「しゃち」は魔除けの生きものではなかっ

たのだ


むねえびは 今はとれない

ふかいところにいるえびで 伊勢えびよりももっと色が緋にちかく かたち

も大きい

これが網にかかることはまれで 一代漁をしても 一度もとったことのない

ものばかり


「むねえび」をとったとなると 近隣近郷からみにくるほど珍しがられた

四、五日ぐらいは生きており 死んでもちやんと触覚を折りまげて なに

ものかに対しているかにみえた


まず床の間において宴をひらき そのあとは母屋のむねにかざって一家の誇

りにした


むねえびの家は海の宗家として信仰されたのである