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           桂さん




天才は 自分を何と思っただろう」

桂さんはのっけにそういった

「さあ やっぱり偉いと思ったんじゃないでしょうかね」

というと

「川端康成の原稿をみていると 小説を読むのとちがって ひどく生ぐさい

感じがして」というのだった



「ともかく桂さん あんたが天才でないことは このわたしが太鼓印を押す

あんたは たて よこ ななめ どこをとっても平凡だ」


口の外まで出ていたそのことばを なぜかそのとき飲みこんだ それは 桂

さんが天才だと思ったからでも 桂さんに失礼だと思ったからでもなく た

だ 言えなくなったということだった


其後 わたしは転勤になり 定年になり 桂さんには会っていない

「桂さん天才説」もさいていない


だのに

フッと

「なぜあんなことを言ったのか」気になって 気になりだすと「桂さんは

ほんとうは天才」なのかと どこかひっかかってくる