sub8ti11
桂さん |
天才は 自分を何と思っただろう」 桂さんはのっけにそういった 「さあ やっぱり偉いと思ったんじゃないでしょうかね」 というと 「川端康成の原稿をみていると 小説を読むのとちがって ひどく生ぐさい 感じがして」というのだった 「ともかく桂さん あんたが天才でないことは このわたしが太鼓印を押す あんたは たて よこ ななめ どこをとっても平凡だ」 口の外まで出ていたそのことばを なぜかそのとき飲みこんだ それは 桂 さんが天才だと思ったからでも 桂さんに失礼だと思ったからでもなく た だ 言えなくなったということだった 其後 わたしは転勤になり 定年になり 桂さんには会っていない 「桂さん天才説」もさいていない だのに フッと 「なぜあんなことを言ったのか」気になって 気になりだすと「桂さんは ほんとうは天才」なのかと どこかひっかかってくる |