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無情/2005年2月10日



私が今の会社に就職してからずっと世話になりっぱなしだった先輩が癌

で逝去した。

60才の定年を迎えてから僅か3年目。

自由人を楽しみはじめて間もなくの2005年2月8日の朝だった。


先月入院を聞いて訪ねた時にはベッドで機嫌良く私の相手をしてくれた。

腰にモルヒネの定量投入機を下げて、足からは2本の点滴を打ち込まれ

ていた。

それでもやりたいことは諦めずに、ベッドの上に奥さんに作ってもらっ

た小さなテーブルを置いて、その上にロールピアノを広げて見せた。

そして、そいつを私にたたかせた。

枕元には、大地震が来てこれで最後だと感じたときにはこいつを楽しむ

のだ・・と言って、新しいボックスのタバコ一箱とウイスキーのスキッ

トルを得意げに見せてくれた。

悲しいかな、あの顔もあの声もあの痩せた手の温もりも二度と私の前に

無い。

無情・・ああ無情・・これしか言葉が見つからない。