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床屋/2003年6月1日



床屋の椅子に座って髭をあったってもらっている。

ちょうど良い刺激が心を開放して、夢心地へと旅立って行く。

ふわっとした瞬間に賑やかな子どもの声が聞こえて、私の旅立ちを引

き戻した。

兄弟とその友だち、総勢3人の声が小さな床屋の空間を占領した。

床屋のお兄さんが2人を椅子に納めて仕事に取りかかる。

私は目を閉じたままその様子を想像している。

ハサミで切り落とされる髪の毛を集めているらしく、「こんなにたく

さん髪の毛が集まった。」と嬉しそうな声が響く。

そのうち床屋のお兄さん/かず君が、「動くな。」「じっとしちょら

んと切るぞ。」と脅しの声が元気のいいガキどもを威圧する。

その脅しが一向に治まらない様子を聞くと、このガキどもはよっぽど

の強者のようだ。

そういえば、大人が子どもに対してこのような言葉をかけているのを

聞くのは久しぶりだ。私の子どもの頃はこれが普通だった。大人は子

どもを叱りながら育ててきた。どこの子どもでも同じように声をかけ

て育ててきた。・・うーん、かず君はすごいと思った。

こんな言葉でガキ連をさとしながら、学校のことや友達のことや、遊

びの話題では友だちの水準で向き合っている。私が失ってしまった人

間としてのつき合い方を彼は持っている。

床屋・・いや、かず君はすごい人間かもしれない。

気持ち良い椅子に身体をあづけて、気持ち良い刺激を受けながら、爽

やかな言葉と気持ちのやり取りをきいて、心の中まで床屋をしてもら

った。・・・いい気分になれた。

目を開けてあたりを見渡すと、何事もなかった様に静かな床屋の空間

があって、さっぱりと刈り込まれた頭の私が鏡の中に取り残されてい

た。