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三日坊主/2002年8月6日



腹の周りについたチャンピオンベルトを少し減らそうと、会社から

の帰路を時折歩こうと考えていた。毎日歩こうなんて気はことさら

無いが、週に2回程度は歩こうと、8月5日その初日を実行した。

我が家までの距離8.4kmを約1時間30分と予測。

太陽の強い日差しが若干和らいだ18時25分会社を出発した。

夕方とはいえ8月の太陽はまだまだ強烈に光線を浴びせてくる。日

陰を選びながらひたすら歩く。10分ほど歩いたところで、周りの

景色を楽しむ余裕が出てきた。こうなると、結構楽しみながら歩く

ことが出来るようになる。日頃、車で通り過ぎるだけの道だが、新

しい発見もある。


中尾石油のガソリンスタンドを過ぎて、裏道の坂を下ると旧商店街

のT字路。左が薬屋。通り慣れた道だったが坂を下りきった右側に

小さな駄菓子屋があった事など全く気付かなかった。通りすがりに

中をのぞくと、腰を少し前屈みにした白髪のおばあさんが二人の子

供を相手に商売をしている。にこやかな笑顔と所狭しと並んだ駄菓

子や花火がやけに懐かしさを感じさせてくれた。


ここからは川沿いの道をひたすら歩く。河口にほど近いこのあたり

は満潮の潮が上がり込み時折ボラが水面に跳ねるのが見える。沈み

かけた夕日が川面に反射きらきらと眩くかがやく。遠くの山々は光

の乱反射で薄紫色にかすみ、我が家までの距離が遙か遠くに思える。

いつか万里の長城に立って眺めた風景を思い出した。

すばらしい風景に気持ちが現実から遠のきはじめた途端、犬の鳴き

声が現実の世界へ私の気持ちを引き戻す。忌々しい犬に低い声で唸

ってやった。


新しい道路が出来てから、旧道のこの道は滅多に車の通行はないが、


それでも時折やってくる。日頃は歩くやつなどいないものだから一

向にスピードを緩めてくれない。歩道の無いこの道は結構危険であ

る。


そんな車に気を配りながら見通しの悪いところにかかると、かんば

んに「プロの道具屋」とある。ウインドウをのぞくと、かんなやノ

ミや鋸が並んでいる。そう言えば我が家の鋸もここの道具屋の印刷

があった。

その向には精米所があり、平ベルトがけの精米機や製粉機が動いて

いる。薄暗い作業場の入り口に老人がじっと座って機械の番をして

いた。


会社を出てから25分。汗は頭から顔へと流れて来る。犬を真似て

頭をブルブル回転させて見たら乾いたアスファルトに汗が飛び散る。

誰も見ていないことを確認して数回頭を振って汗を飛ばし、その汗

に満足した。


結構歩ける自分を誉めて励ましながら歩いて行くとタクシー会社が

あった。仕事を終えたのか仕事が暇なのか、運転手さんは車を磨い

ていたり夜食の素麺をゆでていたり、狭い駐車場はまるでお祭りの

にぎわいにも似ていた。

どの顔も60を遙かに過ぎた年寄りの顔だったがやけに楽しそうだ

った。


道ばたの畑にはニガウリだのナスだのが暑さに負けずに立派に育っ

ている。そんな様子を観察しながら歩いていたら我が家に最も近い

商店街に入ていた。寂れる一方の商店街には人通りはなく、明かり

も寂しい。かつて私が憧れて度々覗きに来たオートバイ屋は朽ち果

てかけた中古のバイクが店の入り口をふさいでいる。

病気の私を見ていただいた懐かしい川添医院は住宅になっていた。

ここから我が家はもう一踏ん張り。中学校とJAの間に架かる橋の

上から両子山にしずんだ夕日の光線を眺めた。

中学校から我が家までは残り3.5kmほどだろう。そろそろ諦め

て弱音を吐こうかと思いもするが、もうしばらく頑張ろうと足を進

める。

近頃有名なってきた焼酎の「とっぱい」を作っている南酒造前で知

り合いに声をかけられて励まされる。こうなるとますます音をあげ

るわけにも行かず、完走を目指そうと強く思う。

太陽もやっと山影に隠れて直接の暑さは和らいで来たがアスファル

トに溜め込んだ熱気は私を足下から灼く。

汗は相変わらず体中から吹き出して止まることはない。見慣れた妙

見山のシルエットを仰ぎながら小学校にたどり着いた。後2km。

ここからはきつい上り坂。

日が沈んでしまうと気持ちも暗くなる。初日の今日はここまでとし

た。気持ちいいエアコンの風がさわやかな汗をかわかして行く。

久しぶりに汗を気持ちいいと感じた。

話の上では8.4kmを完全走破だった。・・ははは・・