sub1253

風をきって/2002年7月17日




小学校1年か2年だったと思う、自転車に初めて乗った感

激を思い出した。

当然、子供用の自転車なんてとうてい買ってもらえないの

で、父親の自転車を持ち出して、まずは押してまわる事か

ら始まった。自転車は頑丈で大きかった。今ではなかなか

見かけなくなったが、牛乳配達や新聞配達に使われる大き

くて黒いやつである。きっと、ゆうに25kgはあっただろ

う。そんな重量級の自転車を押すのは体重25kg程の私に

は大変だったが、自転車に触れるだけで大人になった様な

気持ちだった。毎日毎日自転車との格闘が続き、自転車を

倒さないようにバランスを取ることを覚えると同時に腕力

もついた。そうなると、スケートと称して、ハンドルにぶ

ら下がり、自転車の左ペダルに左足をのせて、右足で地面

を蹴って進む方法を習得した。自転車を少し左に倒してバ

ランスを取りながら前へ進むことを覚え、下り坂は快適な

自走が楽しめるようになった。ここまで来ると、後はタイ

ミングを見計らって地面を蹴っていた右足を三角形のフレ

ーム越しに右ペダルにのせて、ペダルをこぐ芸当に達する。

いっちょう前の自転車乗りの気分で、もはや空を飛んでい

る様な気持ちだった。どこだってぐんぐん行けちゃうんだ

から、私にとっては村が宇宙空間に思えるくらい広がった。

同じようなレベルの同級生や先輩を誘って村じゅうをサイ

クリングした。

楽しくて楽しくて、うれしくて、横乗りサイクリング隊は

朝から晩まで走り回った。そして、次の冒険は棒乗りであ

る。ハンドルとサドルを繋ぐパイプがある。これは、サド

ルより少し低く、ここに直接またがればなんとかペダルに

つま先がとどく。

尻は割れんばかりの痛さだが、それをこらえて棒乗りに挑

戦した。何度も転びながら、尻を真っ赤にしながら、やが

て成功にこぎつけた。傍から見ると、ハンドルにくっつい

て棒をまたいだかっこうは滑稽だったろうが、やっている

本人はいたって真面目に格好をつけて風を切っていた。こ

のころの自転車乗りは最高に楽しかった。転んで刻んだ傷

の痛さも爽快感がうち消してあまりあった。

これが私のプロジェクトXだった。